汐入歯科医院 院長 小屋先生インタビュー
目次
- 歯周内科って何?
- 顕微鏡で「カビの胞子」や「ラセン菌」が見えるんです
- 100歳以上に人が何人か来ています
- 入れ歯の匠です
- 保険/自費の分け隔てなく治療するのが「治療方針」です
- 歯医者の滅菌は「当たり前」なんです
- 患者さんの健康を常に守っているというスタンスです
歯周内科って何?
―先生、「歯周内科」ってなんですか?
一言でいうと、「歯周病をもとから絶つ治療」ということです。
方法としては、薬を使って治します。
「ファンキゾン」という薬があり、そのジェネリックが「ハリゾンシロップ」で、防カビ剤です。
―口の中にカビ、ですか??
はい、いる場合もあります。
内服する薬やうがい薬で、口の中にいるカビをやっつけます。
歯周病の原因を一個ずつ潰していく、というアプローチなんです。
―「ジスロマック」ってなんですか?
細菌を殺すお薬です。
今までは、むし歯菌や歯周病菌などの細菌やカビが原因だと分かっているのにアプローチしてこなかったんです。
歯石が付いたら歯石を取りましょう、むし歯になったらむし歯を治しましょう、歯がなくなったら入れ歯を入れましょう、という起こったことに対して治療する「対処療法」がメインだったんです。
むし歯になるのはむし歯菌、歯周病は歯周病菌が原因と分かっている、そして歯のなくなる一番の原因は歯周病と分かっている。
だから原因の細菌をやっつける、殺すもしくは少なくすれば治るんじゃないの?と言い始めたのが歯周内科の生田斗南先生なんですね。
先生はもともと歯周外科(歯ぐきの中に入り込んだ歯石や歯周病菌を切開して取り出す治療法)もやっていたそうです。
歯周外科で歯ぐきの深いところについている歯石を取って出してもよくならないね、となる・・・どうしてだろう?と。
大元の細菌が改善していないと、歯周外科をやってもよくならない。
歯周内科というアプローチで細菌を減らす方法にしたら、歯周外科に移行しなくても歯周病がよくなったんです。
―「くさい臭いは元から絶たなきゃダメ!」って昔CMがありましたね。
そうです、それと一緒です。
悪い状況が改善することが明らかに分かったので、それを進めるようになったんです。
状況を診るために悪さをする細菌を見る顕微鏡があります・・・悪さをする細菌は結構ハッキリ見えるんです。
見えたら「歯周病のリスクが高いですよね」という判断をします。
リスクの高い人には細菌を殺すジスロマックを出したり、カンジタというカビが入ればハリゾンシロップを出して口の中のカビを減らします。
カビというのは、バクテリア(細菌)と違って、抗生物質が効かないんですよ。
―カビとバクテリア(細菌)は戦う武器が違うってことですね。カビは防カビ剤、細菌は抗生剤・・ですね。
抗生剤を飲んでも、カビは死なないんですよ。
カビをやっつけるときは、ハリゾンです。
「何でカビなんて気にするの?歯周病の細菌だけやっつければいいじゃん」という話なんですけど、口の中の歯周病菌が悪化する一つのベースとしてカビがいることで菌が歯石になりやすくなったりプラークが付きやすくなったりするんです。
つまり、カビが菌を寄せ付ける呼び水になっちゃうんです。
カビを減らすと、原因となる菌が減る傾向にあるんですね。
カビを減らすことで直接的じゃないけどリスクが半分になる、そこにさらにジスロマックを飲んでもっと減らすことが出きれば、理論上菌はゼロになるんです。
それが基本的な歯周内科のアプローチ方法です。
―ダブルで処方!みたいな感じですね。
カビがあるかどうかは目で見て分からないから、口の中の菌を顕微鏡で見ます。
シロップを飲んだだけでは治らないかもしれないから、シロップ(防カビ剤)と飲み薬(抗生剤)を併用した方が治療の成績が上がりやすいんです。
―口の中にカビがいるというのが驚きなんですよ。「え?」って感じなんです。
ベロが白くなっているのはカビなんです。
―え~~~~!カビなんですか?!
カビが原因の場合、ベロをきれいにすると治療成績が良くなったり口のにおいが治ったりするんですよ。
人間の身体って免疫が働いているので、カビでも花粉でもハウスダストでも反応するんです。
口の中は唾液があるので汚れを押し流すし、鼻水で花粉やごみを押し出す方向に働いています。
日常生活で飲み食いすれば、口の中のカビのリスク要因は強くないです。
一番人間を困らせているのは、足の水虫です。
―そうか!水虫はカビなんですね。
真菌=カビですね。
細菌=バクテリアです。
カビは胞子で増える、細菌は細胞分裂で増えるんです。
―なんか思い出しました!理科の授業みたい!(笑)
顕微鏡で「カビの胞子」や「ラセン菌」が見えるんです(無料)
習ったことあるはずです。(笑)
あれは光学顕微鏡で1500~3000倍です。
―顕微鏡は、普段の診療で使うのですか?
基本は初診で来た人で「あ、この人はお口の中の状態がよくないな」と思ったら歯垢(プラーク)を取って調べることが多いです。
続けて通院している人は、半年くらいたって気になれば調べます。
―料金は?
うちは取りません、検査の一環です。
―あら、そうなんですね。顕微鏡で見ると、菌がウジャウジャしている、それを見て患者さんはどんな反応されますか?
患者さんは基本的に口の中がキレイだと思っている人が多いので、見ると「そんなに汚いの?!」となります。
家族に口が臭いと言われてきた人は、「やっぱり口の中に原因があったんだ」という「気付き」になります。
自分は間接的にそうだと思っていても、歯医者さんに来て顕微鏡の画像見せられて直接的に細菌がいっぱいいますという断定的な情報を与えられるとやっぱり疑いはしない。
だって、目の前であなたの口の中の汚れを取って拡大して見せられるわけですから。
―論より証拠ですね。
その顕微鏡で見ると「カビの胞子」まで見えるんですよ。
―カビの胞子が見えるんですか?!
口の中の歯周病で見えてほしくない「らせん菌」っていうのがいるんですけれど、それがいたらリスク高いです、極悪です・・・スピロヘータ―ってやつですね。
イトミミズが三次元的にクルクル回っているような・・・。
―患者さん、卒倒しそうになりませんか?
イトミミズが振動しているように見えます。
気持ち悪く思う人が、8~9割です。
―そりゃそうですよ、「なんかしなきゃ」って思いますよね。ちなみにお薬は自費なんですか?
カビの菌の薬を口腔外科扱いで出すので、大丈夫です。
ピロリ菌という細菌も胃がんのリスクにつながりますよね、除菌をしますよね。
菌がいなくなればリスクが減るんだから、飲み薬を出しますよね。
それと同じです。
カビがなくなる人も多いけど、いなくならない(薬が効かない)人もいる・・・その人その人によって効果があるないを見極めてどうするかつなげます。
効かなかった人は、風邪をひいた時に抗菌剤を出された患者さん、つまり抗菌剤を「当たり前」に使っていた人です。
うちも、3%くらいだけどシロップやジスロマックをやっても聞かない人もいます。
でもほとんどの人に効きます。
8割以上なら御の字です。
―耐性菌ってやつですか?
身体にとって薬は基本毒なので「毒が入ってきたぞ」と肝臓で分解し始めるんです。
薬の効く効かないは、本人の体質もあります。
スプレータイプのペリオバスターという生物由来ヒノキチオールの成分を利用して抗菌作用があるものもありますが、殺菌ではない。
薬の役割は「お前は邪魔!」と菌を殴って殺しにかかる、ペリオバスターは「ちょっと集まんないで~」というイメージで、体にも優しいです。
―分かりやすいですね~。
身体の抵抗力が弱る・・・例えばHIVウイルスに感染している人は、口の中にカンジタ症といってカビがいっぱいはびこっちゃう。
自分の体の免疫のベースが落ちているので、カビを退治するために薬を使わなきゃならなくなると薬に頼らなきゃいけない場合もあります。
ジスロマックは口の中の細菌にほぼ効くので、出して1週間後に口の中の菌を確認しに来てもらうのがスタンダードな形ですかね。
―どうして1週間なんですか?
ジスロマックを3日分飲むと体の中で1週間効果が出る、口の中で効く薬が体の中に回っていって菌が減るということは、それで菌がいなくなる方向に行っているということです。ちゃんと歯磨きして、他人から移されなければ(キスやご飯食べ移しなど)、感染なので、自分の中からいなくなれば感染しないんですよ。
当院に来た患者さんは、ジスロマックとシロップでリスクがかなり減りました。
その状態を維持すると、歯周病の原因がなくなるじゃないですか、そうすると歯周病が治るんですよ、原因が消えるので。
ただし、すぐには効かないんです、ある程度ずーっとやり続けてもらわないと。
「あ、よくなった」ってやめてまた1~2か月後で元に戻っちゃう。
―そりゃよくなったら、やめちゃいますよね。でもダメなんですね。
せっかく始めたんだから、続けなきゃもったいないです。
口の中が全然キレイにならなかった人がキレイになった、奥さんも旦那さんもキレイになった・・・口の中の環境がガラって変わるんです。
長い目で見ていかないと、変わらないんですよ。
―どれくらい?
最初は月に一回、10年くらいかな?
それが当たり前になってる患者さんはうちは多いんです。
100歳以上に人が何人か来ています
―医院さんは出来てどれくらいですか?
24年くらい、引っ越してくる前を入れると30年くらい。
―最初から通っていた患者さん、若かった人もおじさんおばさんになってますね。
そうですね、おじいちゃんおばあちゃんくらいですね。(笑)
開発される前からいた人も、いっぱい来てくれています。
この辺はもともと野原みたいなところで、再開発して変わった場所なんです。
再開発前は雨が降るとすぐ水浸しになる・・・30センチくらい貯まっても日常茶飯事、花壇のヘリの上を南千住の駅まで歩いて行ってましたからね。
南千住は再開発後、元々いた人の10倍くらい人が入ってきています。
小学校も近いところに2件ある。
こんなちっちゃい子が大の大人になって子供いるというのもいるしね、親子三代来てくれたり、100歳以上の人が何人か来てますよ。
―100歳以上の人が歯医者さんに来るんですか?
1人じゃ来れないけどね。
90歳過ぎの人は、1人で来る人が何人もいます。
―何人も?!90歳以上で1人で来られる方が?!
この1週間のうちでも94歳の方が1人で来てましたよ。
1人は総入れ歯、1人は歯が少し残っている(8本)、しかも近所じゃないのでバスに乗ってくる。
―94歳の方が1人でバスに乗って汐入歯科医院に来る?!すごーい!
昔から来てくれているからでしょうけどね。
―口を開ければ全部やってくれる・・・床屋に行って黙って座ればいい、みたいな。
昔はそういう人が多かったですね。
「どうしますか?」といったら「先生の好きなように」と、そんな感じ。
入れ歯の匠です
―他の医院さんで作った入れ歯の調整や修理に来る方はいますか?
います。
うちの家系は代々入れ歯なんで、そんなに入れ歯はイヤじゃない。
―家系が入れ歯ってどういうことですか?
家系が歯医者で、実家の歯科医院は入れ歯が上手いという評判でした。
天皇陛下の親戚の人も、よく来ていました。
天皇陛下の前で講義した最高裁判所の裁判官の人がいるんだけど、その人もウチに着て治療していた。
―入れ歯の匠、なんですね!
松士幸之助(Panasonicの創業者)の入れ歯に「小屋」って名前が入っていたりとか・・・。
昔は歯は皆抜けていくもので、抜けたら入れ歯かブリッジ・・・歯周病云々という概念がなかったですよね。
保険/自費の分け隔てなく治療するのが治療方針です
お金があるないは関係ない、まじめだからコツコツやる、適当にやる事が出来ない。
治療自体手を抜かないし、来てくれた患者さんに適切な治療をしていますよというスタンです。
治療をちゃんとやればできるのに、手を抜いてやってそれで終わりで今痛まないから大丈夫だとか、そういうのが嫌なんです。
―目の前の患者さんのことを思って診療していますよね。どこを見ているか?ですよね。
お金もないと困るんだけど(笑)、あと2倍3倍売上がほしいと思うかというと、それはちょっと違うよなと思います。
毎月来る人が増える方が、売上も満足度も上がる傾向にあるんですよね。
治療も毎月来ているから、むし歯が出来たり歯ぐきが腫れても治療のとっかかりが早いので悪化する可能性が低くなる。
―大工事にはならないんですね、早期発見早期治療、しかもお互いにいいことばかり。
そうなんです。
メンテナンスをちゃんとやって、早期発見早期治療した方が患者さんも多分楽だと思うんです。
―1か月に1回来たら治療しなくて済みますよね。治療はしたくないんですか?
したとしても、本当に簡単にすんじゃう人が多い。
基本的には大工事というのは少ないですよね(笑顔)。
―予防と治療の患者さんの割合は?
予防の方が断然多いかな?
7割くらい、治療も絡むと半々だけど。
入れ歯も多いから、メンテナンスやクリーニングも多いですね。
メンテナンスばっかりの日もあります・・・20人いて15人くらいの時、クリーニングと義歯(入れ歯)の調整です。
普通の治療は、形成とか印象(歯の型どり)とか抜髄(ばつずい:歯の神経を取る)は2割くらいですね。
―本当にホームドクターですね、地元の人のお口を守ってます!みたいな。
ただコロナの時は、痛くないから来なくなった人もいましたね。
歯医者での「滅菌(めっきん)」は「当たり前」なんです
―「コロナで歯医者に行っちゃマズイんじゃないか?」「口を開けて何かやるなんておっかない」と思ってるんです。
ああ。(そうなんだ、という顔)
やっぱり怖がっている人はいますよね。
ずっと月1で来ていた人が、腫れたとか取れたという時だけ来るけど、また来なくなる・・・。
―歯科医院さんは、そもそも超滅菌!と聞きましたがどうなのでしょうか?
コロナ以前から、歯科医院では至った当たり前に「除菌」でも「殺菌」でもなく「滅菌(めっきん)」をしてます。
治療器具を、高圧高温で蒸すんです。
基本的なセットはオートクレーブ(高温高圧滅菌)していますし、掛けられないものは滅菌に近い状態にしています。
医療機関なので、器具の滅菌(めっきん)はクリアしています。
―それは伝わってないです!もっとアピールしてください!
なるほど、そうなんですね。
あとチェア(診察台)を患者さんごとに拭くなどを、プラスアルファでやっていますが、特に新しいことをする必要がないくらいコロナ以前から感染対策をしています。
衛生管理の素朴な疑問も、どしどし聞いてください。
「そんなの当たり前すぎてアピールポイントじゃない」と思っている節はあります。(笑)
―「当たり前」が違うんです!(笑)
タービン(歯を削る機械)も患者さんごとに使い変えてますよ、まあ当たり前なんですけどね。
―ちなみに、タービンっていくらくらいするんですか?
1本15万円くらいです。
―そんなにするのですね!ちなみにどうして歯医者さんになったのですか?
自分の中では、理想があって・・・治療でお金をもらわないで、コメでいいですか野菜でいいですかという無医村で治療をしたいのが原点。
―Dr.コトー診療所みたいですね。でも、健康を維持するという意味で、歯科は大切です。口から食べることの大事さは、親が介護状態になって本当に身に染みています。
食べられないと老化が早い、食べられれば健康維持ができます。
口の中のキレイな人は糖尿病にかかりにくい、糖尿病を治そうとして口をキレイにしたら(糖尿病が)治っちゃったよということがあります、口と体は連動しているんです。
保険診療は予防歯科に対してお金が出なかったのですが、やっと予防歯科でも保険がきくように仕組みが変わってきました。
歯ぐきが腫れている人が歯周病治療すれば、認知症や糖尿病になる人が減る、全身の状態にかなり影響するんです。
・・・日本は予防という概念があまりないです。
アメリカは、歯の矯正をやったり、3週間に1回歯医者に行きます。
なぜか?
むし歯1本治すのに、5万円するからです。
―え?!むし歯の治療が5万円?!
町の歯医者さんでは「入れ歯なんて作ったことないから、専門医の所へ行ってよ」って言われちゃうんです。
入れ歯になるやつなんかいない、作るなら大学病院へ行ってね、みたいな。
―日本とは大違いですね。
日本の歯医者はどこへ行っても総入れ歯作ってくれるけど、アメリカは一般の歯医者では作っていないです。
「俺では作れないから」という顔をされるんですね。
日本は恵まれているんだけど、その恩恵を分からないまま受け取っていますね。
―歯医者なのに入れ歯は作れない?
大学では習っているけど、臨床ではほぼないし技量もないので、紹介状を書くので大学病院で作ってください、という話なんです、自費でね。
保険の3割負担で1~2万円で入れ歯が出来るのは、奇跡に近いんですよ。
だって、7割国が払うんですから、それで半年に1回作り変えられるんですから。
それでは、医療費が減らないですよね。
それでも歯科の医療費は3兆円いってないです、医科の方が多いです。
糖尿病などの医科の病気が減るために、我々も頑張ります。
「患者さんの健康を常に守っている」というスタンスです
―患者さんに一言おねがいします!
「患者さんの健康を常に守っている」というスタンスです。
相手がやってほしい治療をやるまでです。
問診表で、保険がいいとあればそうします。
上の4番がインレー(つめもの)になって銀歯が見えそうになったら「ここ銀歯にすると見えちゃうけどいいですか?」というお話は、します。
自費でやりたいと言われても「もったいないから、やらなくていいんじゃない?歯が動いているし2~3年しか持たないんだったら、保険のを入れときましょうか?」とか言っちゃいますね。(笑)
―率直ですね(笑)。
2~3年しか持たないのに、100万円以上かかるのを勧められないですね。
保険は2年間保証がある、自費の10万円のかぶせ物を入れたらどれくらい持てばいいか?最低でも5~7年持たないと入れたくないね。
5年でも嫌だな・・・。(笑)
入れ歯のノンクラスプという目立たない入れ歯があるんですよ、弾力のあるのは緩くなる、持ちが悪い、3年で新しいのを作ることが多い、なるべく長く持ってほしいんです。
―「医業」でなく「医療」なんですね。
バランスとらなきゃいけないけど、総合的にみると患者的寄りだから儲からないかもしれない。
―先生には絶対曲げちゃいけないところがあるんですね、やってもらう側からしたら安心です。歯医者道ですね~。面白かったです!
僕も面白かったです。
取材後記
先生には、物差しがあって、それがぶれるのがイヤなんだろうなと思いました。
物差しの目盛りは「患者さんのためにいいこと」という目盛りです。
患者さんのために仕事の妥協を許さない、職人気質の先生だなあ、と思いました。